2022年2月にスタートした「二十五、二十一」。
前評判はそれほど高くない作品だったかと思うのですが、個人的には4話目にして今クール一番面白い作品です。
見ると、とにかく元気がもらえます。
本作の簡単なあらすじと共に、勝手な考察をしてみたいと思います。
(2022/02/24現在4話までの放送分を元にしています。)
キャスト
ナ・ヒド(キム・テリ)
現在、41歳で有名なフェンシングの選手になっている。1998年当時18歳。
キム・テリさんは実年齢31歳なのに、18歳役が全然違和感ない。
ペク・イジン(ナム・ジュヒョク)
1998年当時22歳。
コ・ユリム(ボナ)
1998年当時18歳。すでにフェンシングの金メダリスト。
あらすじ
主人公のナ・ヒドは、41歳で韓国の有名なフェンシングの選手になっており、子供のキム・ミンチェがバレエの大会に出場するシーンからはじまります。
子供のキム・ミンチェが反抗して家出して母親の昔の家に住むおばあちゃんのところへ行く。そこには、母親の昔の日記があって、それをキム・ミンチェが読むことで過去のナ・ヒドの物語がはじまる。
1998年日記の中の主人公のナ・ヒドは、17歳の高校生で、まだ全然有名なフェンシングの選手ではなく、土曜日に「あの子」に会いに行くことと、漫画の「フルハウス」を読むことが何よりも楽しみな子だった。
「あの子」とは、若干17歳でフェンシングのオリンピックで金メダルを獲得したコ・ユリムだった。ナ・ヒドは、コ・ユリムの練習を毎週土曜日に見に行くのが楽しみで仕方なかった。
その年、韓国経済をIMF通貨危機が襲う。
ナ・ヒドが所属していたフェンシング部も廃部となってしまう。
ナ・ヒドは顧問に「夢を奪わないで」と懇願するが、「夢を奪うのは俺ではなく時代だ」と言われてしまう。
落ち込むナ・ヒドだがパソコン通信(懐かしい)で連絡を取り合っていたインジョルミ(きなこ餅のことらしい)という人物から「君の世界が消えたなら、あの子の世界へ行け」というメッセージが来る。
ナ・ヒドは、「あの子の世界」つまり、コ・ユリムの所属する学校のフェンシング部に入ろうとありとあらゆる事を始める。
新聞配達をしてたペク・イジンが投げた新聞がナ・ヒドの家のションベン小僧の大事なところを壊してしまい2人は喧嘩する。
ペク・イジンは、元々はお金持ちの息子だったが、IMF通貨危機で家が破産し家族がバラバラになってしまっていた。
ナ・ヒドが行きつけの貸本屋に漫画を返しにいくとそこでもアルバイトをはじめたペク・イジンがいる。
2人は喧嘩しながらも次第に仲良くなっていく。
ナ・ヒドは、コ・ユリムの所属する学校のフェンシング部に入るため、コ・ユリムのコーチに直談判しにいったり、今の学校で問題を起こして退学になろうと不良に絡んでいったり他校との喧嘩に入っていったりするがどれも失敗。
そして、未成年者がクラブで羽目を外してつかまろうとするが、そこには、かつての友人にお金を借りに来ていたペク・イジンがいて危ないところを助けてもらう。
強制転校を目指して馬鹿なことを繰り返すナ・ヒドにペク・イジンは、馬鹿なことをするなと怒る。
ナ・ヒドは聞く
「じゃあ、どうすればいいの?コーチが言っていた。私の夢を奪ったのは自分ではなく時代だと。夢を奪う時代って一体なんなの?」
ペク・イジンは言う。
「時代は、時にたやすく夢を奪う。夢だけじゃなくカネや家族をも奪う。その3つを一度に奪いもする。」
「夢を守ること。方法は間違えたけど、その意志は正しい。俺は失ったことばかり考える。でも、お前は得ることを考える。俺もそうするよ。」
母親に転校したいと話したナ・ヒドだが、喧嘩になってしまい大好きなフルハウスの漫画も破られてしまう。
最終手段として、コ・ユリムのコーチに入れてくれと再度直談判しにいく。
ナ・ヒドの母親とは昔からの知り合いだったコ・ユリムのコーチは、すでに母親から連絡をもらっていて転校させるつもりではあったが、コインの勝負をしてナ・ヒドの靴(ナイキエアマックス)をもらった上で転校を許可する。
ナ・ヒドは、コ・ユリムを一緒に練習できることを大喜びして転校するのだが。
IMF通貨危機ってなに?
本作では母親の昔の話しとして1998年から話が始まります。
そこでは、IMF通貨危機が様々な人に影響を及ぼしています。
IMF通貨危機ってなんだか知っていましたか?
私は恥ずかしながら、きちんと認識できていませんでした。
自分自身もちゃんと大人として生きている時代なのに、本当にいろんな事を知らずに生きてきたことが恥ずかしい。
1997年に起きたアジア諸国の通貨が暴落する事件で、とくにタイ・インドネシア・韓国は大打撃を受けた。
自国の通貨をドルと連動するドルペック制という制度を用いていたアジアの各国で、ドルが高くなることに伴って自国の通貨も高くなり、自国の通貨が高くなると輸出が主な産業だった国々で価格優位性がなくなり輸出ができなくなる。
すると、それまでアジアは成長するぞ!と思って大量のお金を投入していたアメリカやヨーロッパ諸国の機関投資家がお金を引き上げはじめる。こうして急激に経済が不況になってしまう。
あわせて、ドルペック制を用いていたタイのバーツの価値は本来の価値よりもかなり高値になってしまっているのではないか、と考えた機関投資家たちが一気にタイバーツを売りに出し、タイバーツの価値は大暴落。すると、その他のアジアの通貨もやばいかもと考えられ、インドネシアのルピアが暴落。飛び火する形で韓国のウォンも暴落。マレーシアのリンギも暴落。
このように連鎖的におきたアジアの通貨危機に対して、IMFが赤字国に短期融資を行うい返せない場合には、内政干渉することを前提としていた。
2022年現在、また通貨危機が危惧される韓国
おそらく、このような背景もあり、本作でもIMF通貨危機がドラマの裏側のテーマとして扱われているのだと思います。
韓国の映画の歴史って?
第一話で、1998年忠武路という場所でこのままでは映画はダメになってしまう!とデモをやっているシーンが写ります。
忠武路とは、かつては映画の街と呼ばれるほど映画が活況だったようです。
このシーン、何を訴えているかわかりますか?
日本にいると、韓国の映画やドラマの歴史についてほとんど知らず、「シュリ」ではじめて韓国の映画みたなぁとか、「猟奇的な彼女」は面白かったなぁとか、のんきに考えていたのですが、どうも韓国の映画の歴史には日本も深く関わっているし、自由に映画やドラマを作れるようになったのは、ここ最近せいぜい20年あまりのようです。
以下に簡単にこれまでの韓国映画の歴史を羅列しますが、まさに、日本も含めた国家や権力と表現者たちとの戦いの歴史。
本作で訴えているシーンは、そんな戦いの真っ只中に起きたIMF通貨危機でこのままでは韓国映画が死んでしまう、文化を守ろうとデモをしているシーンだと推察されます。
※2022/03/01追記
この場面は、以下の記事によると、海外の映画の上演数を制限して、自国の映画を守ろうと訴えているとのことです。
論文は長いので個人的に気になった部分だけ羅列します。
・1910年 日本が朝鮮半島を植民地化
・1926年 「活動写真フィルム検閲規則」公布
・1940年 「朝鮮映画令」を制定
・1945年 第二次世界大戦終結
・1948年 朝鮮半島が南北に分断
・1950年 朝鮮戦争勃発
・1960年 民間機構の映画倫理委員会が発足(民主化)
・1961年 軍事クーデターが起き民主化運動を弾圧(映倫を解散させて政府が権限を掌握)
・1961年 公演法と国立映画製作所設置法
・1962年 映画法と文化財保護法(映画製作会社は七一社から約二〇社にまで減少)
・1963年 新聞通信等の登録に関する法律と放送法
・1967年 レコードに関する法律
・1973年 映画振興公社を発足
・1979年 朴正煕大統領暗殺事件(民主化への期待)
・1985年 第五次映画法改正(映画製作の自由が大幅に拡大。)
・1987年 民主化宣言。シナリオの事前検閲制度の廃止。
・1989年 公論への政府の関与を排除(表現の自由が大幅に進展)
・1989年 ベルリンの壁崩壊(冷戦時代の終焉)
・1996年 映画法を映画振興法に改称
・1996年 釜山国際映画祭が誕生
・1997年 IMF通貨危機(大企業が映画界から撤退)
・1999年 新映画振興法の公布(表現の自由を獲得)
・1999年 「シュリ」(南北の情報員と工作員の悲愛)
・2001年 検閲を違憲とした判決。
・2001年 「猟奇的な彼女」
・2002年 検閲制度は名実ともに撤廃
・2002年 「冬のソナタ」
・2004年 「オールドボーイ」
まさに、日本の植民地化からはじめる検閲が、第二次世界大戦後アメリカ政府によって金儲けの道具にされ、韓国政府に変わっても変わらない権力による抑制との戦いの歴史。
韓国ドラマの中でも名作となるようなドラマは、どんなにポアっとした恋愛ドラマに思えてもその裏には必ず何かしらの歴史背景や思想や教示が隠されているところじゃないかと個人的には感じています。