【Netflix】「攻殻機動隊 SAC_2045」が異常に面白い件について

2022年6月17日金曜日

Netflix

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「攻殻機動隊 SAC_2045」もう見ましたでしょうか。




シーズン1が2020年4月23日から配信開始され、シーズン2が2022年5月23日から配信開始されました。
めちゃくちゃ面白かったのですが、同時にめちゃくちゃわかりづらい

攻殻機動隊というと、漫画が1989年から始まっており実に30年以上も愛され続けている作品です。そしてコアなファンが多く、アニメもその世界観をかなり詳しく理解していることを前提として作られているので初めて見た人にとってはいきなり「????」となります。
ほとんど説明らしい説明もしてくれず見る人に委ねる系のものが多いので離脱してしまう可能性が高い。

たぶん、私と同じようにあまり攻殻機動隊について詳しくないけどSFは好きだし、本作の楽しみ方を知った上で見たい!もっと楽しみたい!という方も多いのではないかと思い、私が見るときにこういう説明して欲しかったという内容を書いておきます。


最初に出てくる文章の意味をざっくり理解した上で見よう

「攻殻機動隊 SAC_2045」は、最初に文字で説明がはじまるのですがたぶん攻殻機動隊を初めてみた人で何を言っているのか理解出来る人はほとんどいないのではないかと思うほど難解。

2042年、、Great4(米帝、中国、ロシア、ヨーロッパ連合)は互いが”ウィンウィン”になる持続可能性を模索していた。
米帝は人工知能、通称「コード1A84」を使用し、世界はのちにサスティナブル・ウォー(持続可能戦争)と揶揄される”産業としての戦争”をスタートさせた。
しかし、各国が自国の利益のみを最優先させようとしたことからその後世界は深刻な事態を迎える。
2044年、、全世界が同時デフォルトし、各国の金融機関は取引を停止。紙幣はただの紙くずとなり、仮想通貨や電子マネーはネット上からすべて消失した。
これをきっかけに”産業としての戦争”は急速に激化し、先進国においても暴動やテロ、独立運動、国を割っての内戦が勃発し始めた。
サスティナブル・ウォーは緩やかに、だが確実に人類滅亡に向かって拡大しつつあった。
そして、2045年、現在、、、




わかりますか?この意味。
正直私はこれを書くために見返すまで、1回目はこの前提があることすら知らずに見てました。(いったい何を見ていたのか)

これを理解するために、私が理解できる範囲で攻殻機動隊の初心者向けに世界観(前提条件)を書きます。

  1. 第3次(第4次も?)世界大戦後の世界が舞台のSFである。(攻殻機動隊は北斗の拳やAKIRAと同時期(1980〜90年代)の作品)
  2. 電脳と呼ばれる脳がネット環境に繋がっているのが当たり前の世界である。(脳と脳で通信できる)
  3. 身体は人間のままの人間と義体化(機械の身体)している人間がいる。
  4. 公安9課と言われる日本の内務省直属の公安警察組織(攻殻機動隊)に所属している人々(所属していない事もある。本作も最初は所属してない。)荒巻大輔、草薙素子、バトー、トグサの4人がメインキャラとして話が進む。(その他にもいろいろとキャラクターがいるけどとりあえずこの4人だけでも把握したい。)
  5. タチコマというAIを搭載したよくしゃべる戦闘用ロボットが彼らをサポートしている。

この前提を知らずに見ると、いきなり口の動きと言葉があっていないし(電脳で繋がっているので口を動かす必要がない)、「枝をつけた」(電脳での通信を傍受されてしまう状態)とかよくわからない言葉が出てくるし、「サスティナブってる」(おそらく時代に乗っかっている、粋がっている、のような意味かと思います)とか何語?という言葉が乱発されて、わからないやつは入ってくるな的な、すごい排他的なアニメに感じる人も少なくないのではないかと思います。

そして、前提を踏まえた上で最初の説明文字の意味はこんな感じかと思います。
(たぶん、この時点で様々な解釈がありこれが正解かはわからないという難しさ)

Great4(今の世界でいうところのアメリカ、中国、ロシア、EUのイメージだと推測。より詳しく見ていくと厳密には今のアメリカではなかったりするけど。)が、経済的な発展を持続的に行うために、AIを活用して互いに(あまり一般人に影響を出さないように)戦争を続けることとした。
※ちなみに、ここでのAIのコードネーム「1A84」はジョージ・オーウェルの「1984年」および村上春樹の「1Q84」のオマージュだと思われる。
 ジョージ・オーウェル「1984年」の中では3つ大国が戦争を繰り返しながら共存している。

世界同時デフォルトがおき(なぜ世界同時デフォルトが起きたかは文字からは読み取れないが、本編の中ではポストヒューマンによるとも語られている。)、それまではあくまでも産業のためのなんちゃって戦争だったものが、様々な内乱やテロなどを誘発していた。という世の中の話。

 



最初の6話くらいまである程度何を言っているのか理解しながら見る

これを踏まえたうえで、シーズン1第1話が始まります。

頭の中にイメージしておかないと置いていかれるのは、
  • ① 世界経済のバランスを保つための戦争が起きている
  • ② 世界同時デフォルト(貨幣価値が変なことになっている)でバランスがおかしくなっている
  • ③ ②のせいでバランスをとるはずだった戦争がおかしな戦いになってきている
という状態です。

草薙素子とバトーが「ゴースト」という名前の傭兵部隊にいて(公安9課は解散していて二人とも違う仕事している)、レイディスト(テロリストに近い意味だと推察。権力者たちへ反旗を翻しているが実際には遊びの延長のような人々。)達を掃討する作戦を行なっているが、そこで得体の知れない「ジョン・スミス」(おそらくマトリックスの「エージェント・スミス」のオマージュだと思われる)に拉致される。
公安9課「攻殻機動隊」を再稼働させるため、荒巻大輔はトグサに連絡し、草薙素子とバトーを探すがそこで拉致された事を知る。
荒巻大輔とトグサは拉致した相手を調べるが。
と言う話し。



何となく時代設定とか、世界観とかわかりますでしょうか?
本当に何の説明もなく始まるので攻殻機動隊ファン以外はいきなり始まる戦いとかにポカーンとなってしまうのではないでしょうか。

入り口からして入りづらい。

ちなみに、はじめて見る方向けに主要キャラクターの特徴を列挙しておきます。

  • 草薙素子:全身義体化した女性型サイボーグ。「少佐」と呼ばれチームのリーダー的存在。戦闘もハッキングも高いスキルを持っている。
  • バトー:全身義体化した男性型サイボーグ。戦闘が強い。メカに強くタチコマに愛されている。
  • 荒巻大輔:公安9課の課長。義体化はしていない。政治的な手腕と人脈で草薙素子たちの指揮をとる。
  • トグサ:元刑事で義体化していない。戦闘や電脳戦も他のメンバーより得意ではないが情報収集などで能力を発揮。サブキャラっぽいけど実はみんなをつなぐ重要な役割をすることが多い。
ここまでで、とりあえず攻殻機動隊をあまり知らなかった方もなんとか1話〜6話くらいまではついてこれるのではないかと勝手に思っています。


ポストヒューマンとは何なのか?

シーズン1の6話以降で出てくるポストヒューマンについて、物語を見るうえで理解しておかないと全然意味がわからなくなってしまう事だけ書いておきます。

まず、タイトルでもある2045という年はIT界隈ではシンギュラリティと呼ばれる、AIなどコンピュータの処理能力が人間の脳を超えると言われる年です。
※知っている方には今更な話だと思いますが、本作はこういうひとつひとつのことを知っている前提で作られているため、知らない人にとっては本当に難解。

本作では、タチコマなどAIで動くものと草薙素子など人間の脳で動くものは能力の差はありつつもそれなりの範囲で共存しています。
しかし、ポストヒューマンと呼ばれる人々は元人間でありながら、AIも超える脳の処理能力とその動きを支える身体能力をも獲得しています。
マトリックスを見た事がある人なら、ポストヒューマンはネオのような存在と言うとイメージがわきやすいかも。銃の弾道さえも計算して避けられる。



シーズン1の6話以降では、日本にいるとされている3人のポストヒューマンを捕まえるために公安9課の面々は雇われて動きます。


いらない常識を捨てる

本作に限らず、SFものなどを見るときに一番大事なことは「いらない常識は捨てる」ということじゃないかと個人的には思います。

本作でいうと、「どっちが正義でどっちが悪?」のような考えを捨てないと、たぶんいつまでも話が入ってこなくなる可能性があります。

そもそも、主人公である草薙素子など公安9課のメンバーは「正義のために戦っている」わけではなく、「自分たちの特技を生かして」「自分たちの興味のあることを」「たくさんの報酬をもらって」実行しているだけです。

なので、公安9課が正義で、捕まえようとしている人が悪という構図では無いということを前提に物語を見ていないと、本作でも相手方の主張が「悪者が言っている戯言」のようにしか入ってこなくなってしまう可能性があります。

言うまでもないことですが、お互いの主張が違うだけでどっちが正しくてどっちが間違っているなんていうことは世の中にはほとんど存在しない。
本作でもラストに向かうに連れて、人類として何をどう選ぶべきかという選択を迫られます。
それは選択であってどっちが良くてどっちが悪いという概念に囚われてしまうと本作が投げかけている問題にも気づけなくなってしまう可能性が高い。


思考実験としてのSF

現代はSF作品を作るのが本当に難しい時代なんじゃないかと思います。
30年前であれば、空想の話だった脳と脳での通信も、そんなに遠くはない時代には実現しそうになってきていますし、サスティナブル・ウォーだってそれに近いような事象は起きていたりする。今実現が難しい事でも結構実現しちゃいそうな時代において、SF作品を作る、見る人をワクワクさせるような現象を描いたり脚本にしていくというは本当に難しいのだと思います。

そんな時代に、本作は本当に素晴らしい脚本のSF作品なんじゃないかと思います。

1つには、いろんなオマージュを使うことで他の作品の知識も含めていろんな事を知ることでどんどん面白さが増すような作りになっていること。
本作では、ジョージ・オーウェルの「1984年」、村上春樹の「1Q84年」、マトリックスあたりはすぐにわかるオマージュ作品になっています。
このあたりを読んで(見て)いると本作の中での出来事もより楽しめる作りになっています。

2つには、現在社会的な問題になっている(と勝手に考えている)民主主義や資本主義が人類にとってベストな選択なのか?という問題に対して、考える機会としてのサスティナブル・ウォーや世界同時デフォルトなどを扱っていること。世界同時デフォルトは現在の金融システムとしては起こる可能性は低いのではないか?という専門家の意見もあるようですが、その意見も含めてこのような作品があることで聞くことができて問題提起、思考実験としては本当に面白い。

3つには、リアルとネットという2つの世界に生きることになるこれからの世代に対して、おそらく起こるであろう人間の精神的な問題としての2重思考をこのタイミングでアニメーションで取り上げているといこと。私も本作を見て改めて考え始めたくらいなので、このような作品がなければ気にもせずリアルとネットを行き来するような生活に突入していたのかも。

良いSF作品はいつも私達に良い思考実験の場を提供してくれます。


2回見るとわかることがいっぱい

本作はとにかく難しいので最初何を言っているのかよくわからない事も多いかと思います。

例えば、1984年から引用している「戦争は平和,自由は隷従,無知は力」も、最初はなんか難しそうなこと言っておけばそれらしく聞こえる中二病的なやつかと思っていたのですが、本作のテーマでもある1984年の2重思考(矛盾する2つの考えを同時に信じる人間の心理。)を表しながら、同時にこれからバーチャルとリアルという2つの世界に同時に存在していくことになる人類に対して、ある意味では矛盾してしまう2つの世界とどう向き合っていくのかを示唆するような内容に思えて、2回目でやっとなんかちょっと意味わかったかもとなりました。

攻殻機動隊全般に言えることですが、見る人の数だけ解釈の数があるような素晴らしい作品なので、是非見てみてください。

だいぶ優しくしてくれているけどそれでもやっぱり難しいけど、めちゃくちゃ面白いです。
















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